赤シャツの女性 [洒落にならない怖い話11]
二年前の今頃。
その日、来週に迎える彼女の誕生日のプレゼントを買いに都内のある繁華街に居た。
俺はその日バイトが休みだったので昼過ぎからうろうろとプレゼントを物色していた。
交差点の向こうに彼女が気に入りそうなアクセのショップがあったなぁ…
なんて考えながら、そのスクランブル交差点で信号待ちをしていた。
ふと、反対側の歩道の同じく信号待ちをしている
人々の一番右端に居る赤いシャツの若い女性が視界に入った。
瞬間、背筋がぞわっとする感じがした。
視界の一番端に入っただけで直視した訳ではない。と言うか、直視出来ない何かを感じた。
霊感とか全くなかったけど、本能的に「あれ、ヤバい」って感じて、
信号が青に替わったと同時に俺は斜め左前側に進路を進めた。
気のせいかな?とか自問自答しながら、
薄気味悪かったので早くこの場所から離れようと思って早足で歩いてた。
それでも怖いもの見たさと言うか、どんな容姿なんだろ?とスケベ根性が頭を過り、
一瞬だけ目線の先を右側に送った。
ちらっとだけしか見れなかったが、その女性らしき姿は其処にはなく、
同時に、今度は全身の血が逆流するような身の毛のよだつ感覚と、
鳥肌がぶわぁと立って、ガバッと反射的に前に向き直った。
赤シャツの女性は目の前に居た。
618: 2/10:2009/07/25(土) 17:56:36 ID:P1SawmcOO
セミロングの髪にチェックのミニスカにルーズソックス。
顔立ちや服装から女子高生に間違いないだろうが、
生気が全く無い表情からこの世の者では無いと一目で本能的に理解した。
何より、赤いと思っていたシャツは彼女の首筋に真一文字に入った切り口から
流れ出た大量の血が染めていた色だったからだ。
思わず「うっ」と呻く俺の傍らをその娘が通り過ぎる時、頭の中に直接、
無数の虫の羽音に似た耳鳴りと共に、低いくぐもった女の声が響いて来た。
声ははっきりとした言葉としては認識出来なかったが、苦しみとか、怨みとか、怒りとか、色々な感情が渦巻いている様な、思念みたいな感情が脳にダイレクトに響いて来る感じだった。
気が付くと交差点の途中で硬直して立ち止まっていたらしく、車のクラクションで我に返った。
「・・・何だ・・・・・今の?」
周りを振り返っても赤シャツのJKは確認出来ず、白昼夢か幻を見たような・・・
しかし全身は汗でびっしょりだった。
もうなんだかプレゼントを探す気力も失せて今日は帰る事にした。
と言うか、あの一瞬の出来事でどっと疲労感が身体を重くしていた。
帰る道すがら、あの娘は一体何だったのか?色々考えていた。
自殺でもしてさ迷っているのか?とか、首筋の傷から誰かに殺害された娘なのか?
とか、若いのに無念だったろうなぁとか…。
何だか無性に悲しくなり、柄にもなくちょっとだけ心の中で手を合わせてみた。
もしかしたらそれがいけなかったのかも知れない。
619:3/10:2009/07/25(土) 17:58:30 ID:P1SawmcOO
夕方4時頃、へとへとになりながらアパートのドアを開けた瞬間、
誰かに思いっきり背中を蹴られて、つまずきながら両手を付いて玄関に倒れ込んだ。
振り返るとそこには誰も居なかった。直ぐさま外の共用廊下を見たが誰も居ない。
「・・・連れて帰って来ちゃった?」
元々霊感が無いので交差点ですれ違って以降、何かを感じる気配は無かった。
単純につまずいただけか?とか無理矢理自分に言い聞かせるように部屋に入った。
入ったと同時に部屋の一角に目が行った。
机の上に飾っていた彼女との2ショットの写真が、びりびりに破かれて机の上に散乱していた。
「連れて来たんじゃなくて・・・今、出ていった?」
虫の知らせか、何か嫌な予感がして俺は彼女の携帯に電話した。
・・・・・出ない。
多分これからバイトだろうから今電車の中か何かで出られないんだ、
とか、また自分で自分に言い聞かせている。
心臓がバクバク鳴っている。俺はもう一度彼女に電話を掛ける。出ない。
いてもたってもいられなくて、取り敢えず彼女の安否を確認したくなって
彼女のバイト先に行ってみようと思った矢先、携帯が鳴った。
良かったぁと思って着信画面を確認すると、非通知の表示だった。
620:4/10:2009/07/25(土) 18:00:20 ID:P1SawmcOO
「・・・もしもし」
声はない。代わりに電波が悪いのか、
スピーカーの向こうからは雑音みたいなノイズしか聴こえて来ない。
「もしもし?・・・・・もしもし!」
何か向こうで話してるような気もするのだが、雑音が酷すぎて聞き取れない。
埒が明かないので携帯を切った。切った瞬間、違和感に気付いた。
「何で着信音鳴ってんだ?」
通常俺は非通知着信は受信拒否に設定している。
ただ拒否に設定していてもピリリと一瞬だけ音が鳴ってしまう。
だが着信音は非通知だったにも関わらず俺が出るまでの数秒鳴り続けていた。
背中を冷や汗が滴るのを感じ、頭の中で何かヤバい、何かヤバいと思ってたらまた携帯が鳴った。
非通知だった。
暫く出ようかどうか画面を凝視したまま固まっていたが、意を決して出ることにした。
「・・・・・・・誰?」
相変わらずノイズが酷かったが、向こうの声を聞き取ろうと受話器に当てた耳に神経を集中した。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・」
怖くて携帯を放り投げた。女の声だった。
621:5/10:2009/07/25(土) 18:01:38 ID:P1SawmcOO
何をどう整理して考えればいいのか分からず、
頭の芯がカーッと熱くなり目眩がして倒れそうになった。
それでも、彼女の身にも何か善からぬ事が起こりそうな不安が拭えず、
もう一度携帯を拾い上げ、アパートを飛び出した。
駅に着くと構内アナウンスで、〇〇駅で人身事故の為
運転を見合せているとの案内が流されていた。
彼女がバイト先に行く為に乗り換える駅だった。
駅に向かう途中も何度も彼女の携帯に電話をしたが応答がない。
人身事故の相手が彼女と決まった訳ではなかったが、半分泣きそうになりながら
無事でいてくれ、人違いであってくれ、と心の底から念じていた。
携帯が鳴った。
非通知だった。
息を飲んで電話に出る。
受話口の雑音も、周りの雑踏の音も耳に届かず、その声だけが頭に響いた。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・・・・・・・・ジャ・・・・・ダ・・・メ?」
頭の中が真っ白になった。
622:6/10:2009/07/25(土) 18:03:05 ID:P1SawmcOO
得体の知れないモノに逆ナンされてるのか俺は!?
咄嗟に「彼女をどうした!?彼女をどうした!!!」と叫んでいた。
しかし電話はもう切れていた。
気が動転していたのか、着信履歴からそいつに電話をして
もう一度文句を言ってやろうかと履歴画面を出した。
非通知の着信履歴は一件も無かった。
冷静に考えれば非通知相手にこちらから電話は出来ないのだが、着信履歴は残るはず。
だが俺の携帯は昨日の夜から誰からも着信していないのだ。
白昼夢???
一瞬、今日一日の出来事は全て俺が勝手に妄想した絵空事だったのか?
と無理矢理納得し掛けた時、再び携帯が鳴った。
着信画面に彼女の名前。
「うわ~俺やっちまったぁー」とか「そりゃそうだよなぁ~」とか、
あまりに現実離れした今日の出来事を、この彼女の電話一つで
打ち消してくれる気がして、一気に安堵して電話に出た。
しかし、電話口からは、聞き覚えのない、男性の声が出た。
623:7/10:2009/07/25(土) 18:05:02 ID:P1SawmcOO
「〇〇警察です。E美(彼女の名前)さんのお知り合いの方ですか?」
「・・・そうですが?」
「E美さんなんですが、実は先ほど〇〇駅で事故に遇われまして、
現在病院に搬送しているところなんですが・・・」
警察の方の話だと駅のホームから転落し、命に別状はないものの、
頭に怪我をして意識が朦朧としているらしく、万が一のため身内の方に連絡をしようと
携帯を拝借し、俺からのたび重なる着信履歴に気付き連絡をしてくれたらしい。
彼女とは同じ大学だったので、そこに電話をして実家の連絡先を調べてくれと伝え、
彼女の搬送先の病院を聞いて電話を切った。
怒りが込み上げて来る。絶対あいつがやったのだ。
陳腐な三文小説地味ているが、嫉妬心から俺の彼女を殺して
俺を奪おうとしているのだと、その時は本気で思った。
彼女の容体もすごく気になったが、それよりも先ずもう一度あいつに会って
はっきりケリを付けなければと思い、何故だか俺はもう一度昼間の交差点に向かった。
624:8/10:2009/07/25(土) 18:08:11 ID:P1SawmcOO
辺りが少し暗くなりかけていたが昼間よりも信号待ちをしている人達は更に増え、
それでも例の場所に同じように赤シャツのそいつは居た。
恐さとか不可解さとかを超越して俺はその時怒りに満ちていたので、
こっちから詰め寄ってそいつに向かって大声で怒鳴っていた。
途中、そいつの隣に居た三人組のホストだか客引きだかが、
自分達に絡んで来たと思い込まれ胸ぐらを掴まれたりしたが、
そいつらにも赤シャツの異様な姿が見えたのか、誰も居ない空間に構わず
怒鳴っている俺を気味悪がったのか(多分、後者)、気が付くと居なくなっていた。
その間も赤シャツのそいつは無表情でただ前だけを向いていただけだったが、
俺が少し正気を取り戻し、そう言えば昼間手を合わせた時の事を
頭の中で思い返してちょっと心苦しく感じた瞬間、目の前からそいつはスーゥと消えた。
そして、また、非通知から着信が入った。
「・・・・・・・・」
無言だった。
言いたい事は全て出尽くした感があり、俺も何を言えば分からず無言でいた。
626:9/10:2009/07/25(土) 18:12:12 ID:P1SawmcOO
うまく説明出来ないが、なんと言うか別れ話を電話でしているような
気まずい雰囲気と言うか、お互いがお互いの次の言葉を待ってると言うか…。
相手から嫌な雰囲気が感じられなかったからそう思ったのかも知れないが…。
俺は一人で勝手に分かってくれたんだな、
って解釈して思わず「ごめんな」って口に出してしまった。
そのまま電話は切れた。
後日、彼女の病院にお見舞いに行った。
思っていたよりも彼女は元気で、後頭部を十数針縫ったものの、後は軽い打撲程度で済んだ。
ホーム下に転落こそしたが電車の到着まではまだ時間があり、
駅員が緊急連絡をして最悪の難は免れた。
その後、ホームに居合わせた人達に引き上げられ、病院に運ばれたらしい。
複数の目撃者の証言から、彼女が一人でふらふらとホームから落ちる姿が目撃されており、
彼女も模試の追い込みで連日徹夜続きだったらしく、
落ちた瞬間の事は詳しくは憶えてないそうだ。
それよりも、ホームから心配そうに声を掛けている人達の狼狽した姿を下から見上げて
見ているアングルが新鮮だったとか、彼女は嬉々としながら
記憶の断片を思い返すように俺に熱く語っていた。
627:ラスト/10:2009/07/25(土) 18:14:14 ID:P1SawmcOO
「なんにしろ無事で良かったよ。」
「てゆーか、あたし自殺とか勘違いされちゃってんじゃないかと思うと超~ハズいんだけど(笑)」
「…ところでさ、あと他に何か気付いたとか、変なところとかなかった?」
「ん~特にない(笑)」
俺は彼女に特に心配を掛けたくなかったから、あの出来事については一切話さなかった。
出来れば、俺一人の思い過ごしか妄想で処理したかった…
いや、あくまでそう自分に言い聞かせたかったからだ。
「あ!そう言えばあの時、変な感じの娘がいた…
「え!?」
「ホームの上からサラリーマンとか男の人達がわたしを助けようとしてた時なんだけど、その娘だけ一人わたしのこと気にもしないで超~シカトっぽかった。」
「そ…その娘……どんな格好してた?」
突然、ピリリっと携帯が鳴った。
彼女に病院では携帯の電源は切っておけ、と突っ込まれ、
ゴメンゴメンと謝りながら携帯を取り出し、確認した。
非通知からだったので呼び出し音はすぐ止み、履歴にも着信が残っていた。
そう……もう終わった事なんだな………。
「で、その娘の格好だっけ?」
そう言われて顔を上げた。
携帯を耳にあて、首から流した血でシャツを真っ赤に染めた彼女がニヤリと笑って俺を見ていた。
「コ ン ナ カ ン ジ」
俺はその場で気絶した。
「マ タ ア エ タ ネ」
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その日、来週に迎える彼女の誕生日のプレゼントを買いに都内のある繁華街に居た。
俺はその日バイトが休みだったので昼過ぎからうろうろとプレゼントを物色していた。
交差点の向こうに彼女が気に入りそうなアクセのショップがあったなぁ…
なんて考えながら、そのスクランブル交差点で信号待ちをしていた。
ふと、反対側の歩道の同じく信号待ちをしている
人々の一番右端に居る赤いシャツの若い女性が視界に入った。
瞬間、背筋がぞわっとする感じがした。
視界の一番端に入っただけで直視した訳ではない。と言うか、直視出来ない何かを感じた。
霊感とか全くなかったけど、本能的に「あれ、ヤバい」って感じて、
信号が青に替わったと同時に俺は斜め左前側に進路を進めた。
気のせいかな?とか自問自答しながら、
薄気味悪かったので早くこの場所から離れようと思って早足で歩いてた。
それでも怖いもの見たさと言うか、どんな容姿なんだろ?とスケベ根性が頭を過り、
一瞬だけ目線の先を右側に送った。
ちらっとだけしか見れなかったが、その女性らしき姿は其処にはなく、
同時に、今度は全身の血が逆流するような身の毛のよだつ感覚と、
鳥肌がぶわぁと立って、ガバッと反射的に前に向き直った。
赤シャツの女性は目の前に居た。
618: 2/10:2009/07/25(土) 17:56:36 ID:P1SawmcOO
セミロングの髪にチェックのミニスカにルーズソックス。
顔立ちや服装から女子高生に間違いないだろうが、
生気が全く無い表情からこの世の者では無いと一目で本能的に理解した。
何より、赤いと思っていたシャツは彼女の首筋に真一文字に入った切り口から
流れ出た大量の血が染めていた色だったからだ。
思わず「うっ」と呻く俺の傍らをその娘が通り過ぎる時、頭の中に直接、
無数の虫の羽音に似た耳鳴りと共に、低いくぐもった女の声が響いて来た。
声ははっきりとした言葉としては認識出来なかったが、苦しみとか、怨みとか、怒りとか、色々な感情が渦巻いている様な、思念みたいな感情が脳にダイレクトに響いて来る感じだった。
気が付くと交差点の途中で硬直して立ち止まっていたらしく、車のクラクションで我に返った。
「・・・何だ・・・・・今の?」
周りを振り返っても赤シャツのJKは確認出来ず、白昼夢か幻を見たような・・・
しかし全身は汗でびっしょりだった。
もうなんだかプレゼントを探す気力も失せて今日は帰る事にした。
と言うか、あの一瞬の出来事でどっと疲労感が身体を重くしていた。
帰る道すがら、あの娘は一体何だったのか?色々考えていた。
自殺でもしてさ迷っているのか?とか、首筋の傷から誰かに殺害された娘なのか?
とか、若いのに無念だったろうなぁとか…。
何だか無性に悲しくなり、柄にもなくちょっとだけ心の中で手を合わせてみた。
もしかしたらそれがいけなかったのかも知れない。
619:3/10:2009/07/25(土) 17:58:30 ID:P1SawmcOO
夕方4時頃、へとへとになりながらアパートのドアを開けた瞬間、
誰かに思いっきり背中を蹴られて、つまずきながら両手を付いて玄関に倒れ込んだ。
振り返るとそこには誰も居なかった。直ぐさま外の共用廊下を見たが誰も居ない。
「・・・連れて帰って来ちゃった?」
元々霊感が無いので交差点ですれ違って以降、何かを感じる気配は無かった。
単純につまずいただけか?とか無理矢理自分に言い聞かせるように部屋に入った。
入ったと同時に部屋の一角に目が行った。
机の上に飾っていた彼女との2ショットの写真が、びりびりに破かれて机の上に散乱していた。
「連れて来たんじゃなくて・・・今、出ていった?」
虫の知らせか、何か嫌な予感がして俺は彼女の携帯に電話した。
・・・・・出ない。
多分これからバイトだろうから今電車の中か何かで出られないんだ、
とか、また自分で自分に言い聞かせている。
心臓がバクバク鳴っている。俺はもう一度彼女に電話を掛ける。出ない。
いてもたってもいられなくて、取り敢えず彼女の安否を確認したくなって
彼女のバイト先に行ってみようと思った矢先、携帯が鳴った。
良かったぁと思って着信画面を確認すると、非通知の表示だった。
620:4/10:2009/07/25(土) 18:00:20 ID:P1SawmcOO
「・・・もしもし」
声はない。代わりに電波が悪いのか、
スピーカーの向こうからは雑音みたいなノイズしか聴こえて来ない。
「もしもし?・・・・・もしもし!」
何か向こうで話してるような気もするのだが、雑音が酷すぎて聞き取れない。
埒が明かないので携帯を切った。切った瞬間、違和感に気付いた。
「何で着信音鳴ってんだ?」
通常俺は非通知着信は受信拒否に設定している。
ただ拒否に設定していてもピリリと一瞬だけ音が鳴ってしまう。
だが着信音は非通知だったにも関わらず俺が出るまでの数秒鳴り続けていた。
背中を冷や汗が滴るのを感じ、頭の中で何かヤバい、何かヤバいと思ってたらまた携帯が鳴った。
非通知だった。
暫く出ようかどうか画面を凝視したまま固まっていたが、意を決して出ることにした。
「・・・・・・・誰?」
相変わらずノイズが酷かったが、向こうの声を聞き取ろうと受話器に当てた耳に神経を集中した。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・」
怖くて携帯を放り投げた。女の声だった。
621:5/10:2009/07/25(土) 18:01:38 ID:P1SawmcOO
何をどう整理して考えればいいのか分からず、
頭の芯がカーッと熱くなり目眩がして倒れそうになった。
それでも、彼女の身にも何か善からぬ事が起こりそうな不安が拭えず、
もう一度携帯を拾い上げ、アパートを飛び出した。
駅に着くと構内アナウンスで、〇〇駅で人身事故の為
運転を見合せているとの案内が流されていた。
彼女がバイト先に行く為に乗り換える駅だった。
駅に向かう途中も何度も彼女の携帯に電話をしたが応答がない。
人身事故の相手が彼女と決まった訳ではなかったが、半分泣きそうになりながら
無事でいてくれ、人違いであってくれ、と心の底から念じていた。
携帯が鳴った。
非通知だった。
息を飲んで電話に出る。
受話口の雑音も、周りの雑踏の音も耳に届かず、その声だけが頭に響いた。
「・・・・・・・・・・・・ワ・・・・・・・タ・・・・シ・・・・・・・・・ジャ・・・・・ダ・・・メ?」
頭の中が真っ白になった。
622:6/10:2009/07/25(土) 18:03:05 ID:P1SawmcOO
得体の知れないモノに逆ナンされてるのか俺は!?
咄嗟に「彼女をどうした!?彼女をどうした!!!」と叫んでいた。
しかし電話はもう切れていた。
気が動転していたのか、着信履歴からそいつに電話をして
もう一度文句を言ってやろうかと履歴画面を出した。
非通知の着信履歴は一件も無かった。
冷静に考えれば非通知相手にこちらから電話は出来ないのだが、着信履歴は残るはず。
だが俺の携帯は昨日の夜から誰からも着信していないのだ。
白昼夢???
一瞬、今日一日の出来事は全て俺が勝手に妄想した絵空事だったのか?
と無理矢理納得し掛けた時、再び携帯が鳴った。
着信画面に彼女の名前。
「うわ~俺やっちまったぁー」とか「そりゃそうだよなぁ~」とか、
あまりに現実離れした今日の出来事を、この彼女の電話一つで
打ち消してくれる気がして、一気に安堵して電話に出た。
しかし、電話口からは、聞き覚えのない、男性の声が出た。
623:7/10:2009/07/25(土) 18:05:02 ID:P1SawmcOO
「〇〇警察です。E美(彼女の名前)さんのお知り合いの方ですか?」
「・・・そうですが?」
「E美さんなんですが、実は先ほど〇〇駅で事故に遇われまして、
現在病院に搬送しているところなんですが・・・」
警察の方の話だと駅のホームから転落し、命に別状はないものの、
頭に怪我をして意識が朦朧としているらしく、万が一のため身内の方に連絡をしようと
携帯を拝借し、俺からのたび重なる着信履歴に気付き連絡をしてくれたらしい。
彼女とは同じ大学だったので、そこに電話をして実家の連絡先を調べてくれと伝え、
彼女の搬送先の病院を聞いて電話を切った。
怒りが込み上げて来る。絶対あいつがやったのだ。
陳腐な三文小説地味ているが、嫉妬心から俺の彼女を殺して
俺を奪おうとしているのだと、その時は本気で思った。
彼女の容体もすごく気になったが、それよりも先ずもう一度あいつに会って
はっきりケリを付けなければと思い、何故だか俺はもう一度昼間の交差点に向かった。
624:8/10:2009/07/25(土) 18:08:11 ID:P1SawmcOO
辺りが少し暗くなりかけていたが昼間よりも信号待ちをしている人達は更に増え、
それでも例の場所に同じように赤シャツのそいつは居た。
恐さとか不可解さとかを超越して俺はその時怒りに満ちていたので、
こっちから詰め寄ってそいつに向かって大声で怒鳴っていた。
途中、そいつの隣に居た三人組のホストだか客引きだかが、
自分達に絡んで来たと思い込まれ胸ぐらを掴まれたりしたが、
そいつらにも赤シャツの異様な姿が見えたのか、誰も居ない空間に構わず
怒鳴っている俺を気味悪がったのか(多分、後者)、気が付くと居なくなっていた。
その間も赤シャツのそいつは無表情でただ前だけを向いていただけだったが、
俺が少し正気を取り戻し、そう言えば昼間手を合わせた時の事を
頭の中で思い返してちょっと心苦しく感じた瞬間、目の前からそいつはスーゥと消えた。
そして、また、非通知から着信が入った。
「・・・・・・・・」
無言だった。
言いたい事は全て出尽くした感があり、俺も何を言えば分からず無言でいた。
626:9/10:2009/07/25(土) 18:12:12 ID:P1SawmcOO
うまく説明出来ないが、なんと言うか別れ話を電話でしているような
気まずい雰囲気と言うか、お互いがお互いの次の言葉を待ってると言うか…。
相手から嫌な雰囲気が感じられなかったからそう思ったのかも知れないが…。
俺は一人で勝手に分かってくれたんだな、
って解釈して思わず「ごめんな」って口に出してしまった。
そのまま電話は切れた。
後日、彼女の病院にお見舞いに行った。
思っていたよりも彼女は元気で、後頭部を十数針縫ったものの、後は軽い打撲程度で済んだ。
ホーム下に転落こそしたが電車の到着まではまだ時間があり、
駅員が緊急連絡をして最悪の難は免れた。
その後、ホームに居合わせた人達に引き上げられ、病院に運ばれたらしい。
複数の目撃者の証言から、彼女が一人でふらふらとホームから落ちる姿が目撃されており、
彼女も模試の追い込みで連日徹夜続きだったらしく、
落ちた瞬間の事は詳しくは憶えてないそうだ。
それよりも、ホームから心配そうに声を掛けている人達の狼狽した姿を下から見上げて
見ているアングルが新鮮だったとか、彼女は嬉々としながら
記憶の断片を思い返すように俺に熱く語っていた。
627:ラスト/10:2009/07/25(土) 18:14:14 ID:P1SawmcOO
「なんにしろ無事で良かったよ。」
「てゆーか、あたし自殺とか勘違いされちゃってんじゃないかと思うと超~ハズいんだけど(笑)」
「…ところでさ、あと他に何か気付いたとか、変なところとかなかった?」
「ん~特にない(笑)」
俺は彼女に特に心配を掛けたくなかったから、あの出来事については一切話さなかった。
出来れば、俺一人の思い過ごしか妄想で処理したかった…
いや、あくまでそう自分に言い聞かせたかったからだ。
「あ!そう言えばあの時、変な感じの娘がいた…
「え!?」
「ホームの上からサラリーマンとか男の人達がわたしを助けようとしてた時なんだけど、その娘だけ一人わたしのこと気にもしないで超~シカトっぽかった。」
「そ…その娘……どんな格好してた?」
突然、ピリリっと携帯が鳴った。
彼女に病院では携帯の電源は切っておけ、と突っ込まれ、
ゴメンゴメンと謝りながら携帯を取り出し、確認した。
非通知からだったので呼び出し音はすぐ止み、履歴にも着信が残っていた。
そう……もう終わった事なんだな………。
「で、その娘の格好だっけ?」
そう言われて顔を上げた。
携帯を耳にあて、首から流した血でシャツを真っ赤に染めた彼女がニヤリと笑って俺を見ていた。
「コ ン ナ カ ン ジ」
俺はその場で気絶した。
「マ タ ア エ タ ネ」
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黒いもの [洒落にならない怖い話11]
1/4
俺は新聞屋の専業でさ、休みを除いて朝夕毎日決まった区域を配達してるんだ。
この仕事をしてると、やっぱそれなりに妙な体験をしたことも何度かある。
それで、これは最近あったというか継続中の話。
俺の担当区域は結構田舎の方でね、配る家と家の間も結構離れてるようなところなんだ。
もちろん街灯もあまり無く、建ってる家も古い家が多くて玄関の灯りさえ無いところがほとんど。
当初はビクビクしながら配ってたけど人間やっぱり慣れるもので、
いつの間にか恐怖心は無くなってた。
でも、最近は配るのが怖くて仕方ない。
その理由は、あるお客の家(以後はA宅)の向かいの林の中に建っている廃墟にある。
A宅の向かいに廃墟があるのは、この区域の担当になった2年くらい前から知っていた。
元が何なのかはわからないけど、多分元はホテルか何かだった廃墟。
A宅は敷地内にバイクで乗り入れられないからバイクを通りに停め、
敷地内を少し歩いて玄関のポストへ新聞を入れる。
それでバイクへ戻る時、必然的に視界へその廃墟は入ってくる。
最初にも書いた通り、初めのうちは怖かったが何か起きるわけでもなく、
2年経つうちに気にも留めなくなってた。
でも、今月の三日、何かが起こったんだ。
その日、いつものようにA宅へ新聞を入れ、
いつものように何も考えず廃墟を視界に入れながらバイクへ戻った。
本当に何も考えてなかったよ。
新聞配達なんて身体が覚えて惰性って言うのかな。そんな感じで配るからね。
そんな俺の視界にある廃墟の入り口。
多分、以前は門とかがあったんじゃないかと思う場所。
そこにいつもの景色にはないものがあったんだ。
610: 本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:37:01 ID:ZkufKq/K0
2/4
黒いもの。
暗さに目が慣れているとは言っても、街灯もなく、
月や星の明かりだけの中で黒いものなんて見えるはずがない。
それなのに、明らかに黒いとわかるものが見えた。
俺は固まって頭の中に色々な考えがよぎったよ。
人影か・・・いや、人のわけがないし・・・第一人の形をしていない・・・
それ以前に生き物なのかわからない。
それじゃ、木か・・・いや、木の形でもない・・・何なんだ?
詳しくは覚えていないけど、とにかく色々なことを考えた。
そして、俺の出した結論。
とにかく、わけのわからない事柄に関わらない方がいい、早くバイクに乗って配達を続けよう。
俺は特に駆けたりもせずバイクへ近づき、バイクへ乗って走り出したよ。
何か声が聞こえたりもなく、後ろから何かが来ている気配もなく、
その日の配達は何事も無く終わった。
その日の夕刊、A宅には夕刊も入れている。
今朝のことは頭にあったけど、
きっと見間違えか何かだろうと思いながらA宅へ夕刊を入れて戻る。
廃墟の方を見てみるが、黒いものがあったと思われる場所には何もない。
やっぱり見間違えだったんだ、そう思って夕刊を終えた。
そして翌日、昨日のことが頭によぎるけど、
夕刊の時に確認していることもあって特に怖いとも思っていなかった。
順調に配達を続けて、A宅へもいつも通りに新聞を入れる。
そして戻る時、昨日のことをその時は完全に忘れていた俺の視界に昨日と同じものが映った。
611:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:40:09 ID:ZkufKq/K0
3/4
ある。昨日と同じ場所に、同じ黒い何かがある。
それを見た瞬間、全身に鳥肌が立って、その後に冷たい汗が出てきたよ。
夕刊時に確認した時は確かに何も無かったはずだった。
一体、あれが何なのかさっぱりわからない。
でも、確認する為に近づくなんて怖くて絶対にできない。
この時は、何を考えていたのかも覚えてないし、とにかく動けなかった。
どれくらい時間が経ったのかもわからないけど、配達を遅らせるわけにもいかない。
確か「配達しなきゃ」と思って、ようやく身体が動いたような気がする。
どうにか配達を再開したけど、乗ってる時は怖くて後方確認なんて
絶対にできなかったし、ミラーも見れなかった。
バイクから降りないと新聞を入れられない別の家に来て、ようやく少し落ち着いたね。
今は日の出も早くて、その頃は辺りも薄っすらと明るくなってきてたのもあるかもしれない。
とりあえず、その後は何事も起こらず配達は無事に終了。
その日の夕刊時。
昨日、今日とおかしな物を見て気になったから、店の古株達に聞いてみたんだ。
その廃墟はもう十年以上前からあるけど、そんな話は聞いたことがないと言う。
A宅や近辺のお客にもそれとなく聞いてみたけど、元は普通のホテルで、普通に潰れだけ。
ただ、潰れた後に恐らく放火だと思うけど、火事で焼けたとのこと。
周りが林だったこともあって、その時はA宅のお客や周りの家も大騒ぎだったらしい。
でも、無事に消し止められ、すでに廃墟だったこともあって人が死んだということもない。
何か変な噂なども聞いたことはないと言われた。
それじゃ、俺が見たものは一体何だというのだろう。
曰く付きでもない建物に霊なんているのだろうか。
そうなると、やっぱり俺の見間違いだろうとしか思えなかった。
613:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:43:48 ID:ZkufKq/K0
4/4
そして、今日。
初めて黒いものを見てから、もう23日が経過している。
その間、休日を除いて俺は毎朝それを見ているけど、
俺が休みの日に代わりで配る人は何も見ていないそうだ。
向こうが何かしてくるわけでもない、身の回りで何か不可思議な現象が起きているわけでもない。
ただ毎朝、あの黒いものはそこにいるだけだ。
一体あれは何なんだろうか。
霊なのか、生き物なのかもわからない。
近づけばわかるのかもしれないが、それで何かあるのも絶対に嫌だ。
でも、最近になって少し変化があるように見える。
ほんの少しだけど、黒いものが大きく見えるようになった気がする。
暗い中でのことだから俺の気のせいかもしれない。
でも、もしも、もしもだ。
もし、あれがほんの少しだけこちらに近づいてきているとしたら。
もし、あれが霊で、俺のほうへ少しずつ近づいてきていたらどうすればいいんだろう。
聞いている方からすれば大して怖くないかもしれないけど、俺は怖くて仕方ない。
明日の朝刊配達がとにかく鬱だよ。
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俺は新聞屋の専業でさ、休みを除いて朝夕毎日決まった区域を配達してるんだ。
この仕事をしてると、やっぱそれなりに妙な体験をしたことも何度かある。
それで、これは最近あったというか継続中の話。
俺の担当区域は結構田舎の方でね、配る家と家の間も結構離れてるようなところなんだ。
もちろん街灯もあまり無く、建ってる家も古い家が多くて玄関の灯りさえ無いところがほとんど。
当初はビクビクしながら配ってたけど人間やっぱり慣れるもので、
いつの間にか恐怖心は無くなってた。
でも、最近は配るのが怖くて仕方ない。
その理由は、あるお客の家(以後はA宅)の向かいの林の中に建っている廃墟にある。
A宅の向かいに廃墟があるのは、この区域の担当になった2年くらい前から知っていた。
元が何なのかはわからないけど、多分元はホテルか何かだった廃墟。
A宅は敷地内にバイクで乗り入れられないからバイクを通りに停め、
敷地内を少し歩いて玄関のポストへ新聞を入れる。
それでバイクへ戻る時、必然的に視界へその廃墟は入ってくる。
最初にも書いた通り、初めのうちは怖かったが何か起きるわけでもなく、
2年経つうちに気にも留めなくなってた。
でも、今月の三日、何かが起こったんだ。
その日、いつものようにA宅へ新聞を入れ、
いつものように何も考えず廃墟を視界に入れながらバイクへ戻った。
本当に何も考えてなかったよ。
新聞配達なんて身体が覚えて惰性って言うのかな。そんな感じで配るからね。
そんな俺の視界にある廃墟の入り口。
多分、以前は門とかがあったんじゃないかと思う場所。
そこにいつもの景色にはないものがあったんだ。
610: 本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:37:01 ID:ZkufKq/K0
2/4
黒いもの。
暗さに目が慣れているとは言っても、街灯もなく、
月や星の明かりだけの中で黒いものなんて見えるはずがない。
それなのに、明らかに黒いとわかるものが見えた。
俺は固まって頭の中に色々な考えがよぎったよ。
人影か・・・いや、人のわけがないし・・・第一人の形をしていない・・・
それ以前に生き物なのかわからない。
それじゃ、木か・・・いや、木の形でもない・・・何なんだ?
詳しくは覚えていないけど、とにかく色々なことを考えた。
そして、俺の出した結論。
とにかく、わけのわからない事柄に関わらない方がいい、早くバイクに乗って配達を続けよう。
俺は特に駆けたりもせずバイクへ近づき、バイクへ乗って走り出したよ。
何か声が聞こえたりもなく、後ろから何かが来ている気配もなく、
その日の配達は何事も無く終わった。
その日の夕刊、A宅には夕刊も入れている。
今朝のことは頭にあったけど、
きっと見間違えか何かだろうと思いながらA宅へ夕刊を入れて戻る。
廃墟の方を見てみるが、黒いものがあったと思われる場所には何もない。
やっぱり見間違えだったんだ、そう思って夕刊を終えた。
そして翌日、昨日のことが頭によぎるけど、
夕刊の時に確認していることもあって特に怖いとも思っていなかった。
順調に配達を続けて、A宅へもいつも通りに新聞を入れる。
そして戻る時、昨日のことをその時は完全に忘れていた俺の視界に昨日と同じものが映った。
611:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:40:09 ID:ZkufKq/K0
3/4
ある。昨日と同じ場所に、同じ黒い何かがある。
それを見た瞬間、全身に鳥肌が立って、その後に冷たい汗が出てきたよ。
夕刊時に確認した時は確かに何も無かったはずだった。
一体、あれが何なのかさっぱりわからない。
でも、確認する為に近づくなんて怖くて絶対にできない。
この時は、何を考えていたのかも覚えてないし、とにかく動けなかった。
どれくらい時間が経ったのかもわからないけど、配達を遅らせるわけにもいかない。
確か「配達しなきゃ」と思って、ようやく身体が動いたような気がする。
どうにか配達を再開したけど、乗ってる時は怖くて後方確認なんて
絶対にできなかったし、ミラーも見れなかった。
バイクから降りないと新聞を入れられない別の家に来て、ようやく少し落ち着いたね。
今は日の出も早くて、その頃は辺りも薄っすらと明るくなってきてたのもあるかもしれない。
とりあえず、その後は何事も起こらず配達は無事に終了。
その日の夕刊時。
昨日、今日とおかしな物を見て気になったから、店の古株達に聞いてみたんだ。
その廃墟はもう十年以上前からあるけど、そんな話は聞いたことがないと言う。
A宅や近辺のお客にもそれとなく聞いてみたけど、元は普通のホテルで、普通に潰れだけ。
ただ、潰れた後に恐らく放火だと思うけど、火事で焼けたとのこと。
周りが林だったこともあって、その時はA宅のお客や周りの家も大騒ぎだったらしい。
でも、無事に消し止められ、すでに廃墟だったこともあって人が死んだということもない。
何か変な噂なども聞いたことはないと言われた。
それじゃ、俺が見たものは一体何だというのだろう。
曰く付きでもない建物に霊なんているのだろうか。
そうなると、やっぱり俺の見間違いだろうとしか思えなかった。
613:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 17:43:48 ID:ZkufKq/K0
4/4
そして、今日。
初めて黒いものを見てから、もう23日が経過している。
その間、休日を除いて俺は毎朝それを見ているけど、
俺が休みの日に代わりで配る人は何も見ていないそうだ。
向こうが何かしてくるわけでもない、身の回りで何か不可思議な現象が起きているわけでもない。
ただ毎朝、あの黒いものはそこにいるだけだ。
一体あれは何なんだろうか。
霊なのか、生き物なのかもわからない。
近づけばわかるのかもしれないが、それで何かあるのも絶対に嫌だ。
でも、最近になって少し変化があるように見える。
ほんの少しだけど、黒いものが大きく見えるようになった気がする。
暗い中でのことだから俺の気のせいかもしれない。
でも、もしも、もしもだ。
もし、あれがほんの少しだけこちらに近づいてきているとしたら。
もし、あれが霊で、俺のほうへ少しずつ近づいてきていたらどうすればいいんだろう。
聞いている方からすれば大して怖くないかもしれないけど、俺は怖くて仕方ない。
明日の朝刊配達がとにかく鬱だよ。
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キリクチ [洒落にならない怖い話11]
1/4
釣り好きの叔父さんから聞いた話
叔父さんは紀伊半島によく渓流釣りに行っていた。
その日も林道から3時間程上流に登ったところにある穴場に行った。
途中10メートルくらい落差のある滝なんかも登る。
穴場はシーズン中いつも入れ食い状態らしいが、その日は一匹も釣れない。
諦めかけた時一匹の大物がかかった。
50cmはあろうかというイワナだった。
叔父さんは大喜びしたのもつかの間、イワナの体を見てびっくりした。
体がぐにゃりと曲がっていた。
奇形は良く釣り上げるが、こんなにひどいのは初めてだった。
こんな体でここまで大きくなったのに、殺してしまうのはかわいそうだと
イワナをそっと逃がしてあげた。
「あれはキリクチやった、きっと主やな」
紀伊半島だけに棲むイワナで絶滅寸前らしい。
589: 本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:30:03 ID:fKVojrHb0
2/4
だいぶ薄暗くなってきたので、その日の成果は諦め沢を降る。
来がけの難所である滝まで来たとき、もう辺りは薄暗くなっていた。
叔父さんは大きな岩に持っていたロープを回し崖を降りはじめた。
普段そんなことはぜず、慎重に足場を探しながらゆっくりと降りるらしい。
懐中電灯の類を持ってきていなかった叔父さんは、
こんなところで一晩過すのはまっぴらだと横着した。
下まであと3~4メートルというところで、
引っ掛けていたロープが外れたらしく落下。
ゴツゴツとした岩場に着地し足に激痛が走る。
あまりの痛さに、これは間違いなく骨折してると思った。
周りに落ちている枝切れで足を固定し、なんとか川を降りようとしたが、
真っ暗な中、しかも片足では大して進むこともできず、
諦めて川岸に座り込んだ。
590:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:31:33 ID:fKVojrHb0
3/4
睡魔か空腹か骨折の痛みのせいか、意識がもうろうとしている中、
何かが叔父さんのすぐ近くにいることに気付いた。
フンフンフン フゴー フンフン フゴー
それはしきりに叔父さんの臭いを嗅ぎまわっていた。
牧場の牛を臭いを更に酷くしたような獣の臭いが鼻をつく。
クマや!死んだふりしてもあかん!
そう思ったが、体を動かすことも目を開けることもできなかった。
しばらくその獣は叔父さんの周りを回っていたが、
突然足をぐいっと持ち上げられたかと思うと、
ゴツゴツした川原を引きずられだした。
体中を岩に何度も打ちつけられ、
この後自分が食べられることが分かっていながらも、
痛いがな、もうちょっと優しくしてくれ
などと思っていたところで記憶がなくなった。
気がつくと夜は明けていて、川原に寝転がっていた。
辺りを見回すと、そこは車を止めた林道のすぐ脇だった。
相変わらず激痛が走る足を引きずり、
叔父さんは自力で車を運転して病院に行った。
591:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:33:02 ID:fKVojrHb0
4/4
そんな体験談を聞いて
「クマに助けられた?」と尋ねた。
「あれはクマやない、クマやったら引きずられてるとき横か上におるやろ」
四本足で歩く熊が人を咥えて引きずる姿を想像してみる。
確かに体が邪魔になる。下手したら踏みつけられるかも。
じゃあ何?と不思議がってる俺に叔父さんは言った。
「牛鬼や」
ええ?昔話の?あれ人を襲って食べるんじゃなかったか?
信じられないという問いかけに
「キリクチ助けたやろ?せやから助かった。
あれ捕まえとったら多分わしも食べられてたわ」
叔父さんが言うには、
川の主であるイワナに温情をかけ食べずに逃がしてあげたので、
牛鬼は叔父さんを食べずに助けてくれたとのこと。
それ以来叔父さんはイワナを釣り上げても逃がすようにしているらしい。
「キャッチアンドリリースや、アマゴは食べるけどな」
そう言って豪快に笑った。
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釣り好きの叔父さんから聞いた話
叔父さんは紀伊半島によく渓流釣りに行っていた。
その日も林道から3時間程上流に登ったところにある穴場に行った。
途中10メートルくらい落差のある滝なんかも登る。
穴場はシーズン中いつも入れ食い状態らしいが、その日は一匹も釣れない。
諦めかけた時一匹の大物がかかった。
50cmはあろうかというイワナだった。
叔父さんは大喜びしたのもつかの間、イワナの体を見てびっくりした。
体がぐにゃりと曲がっていた。
奇形は良く釣り上げるが、こんなにひどいのは初めてだった。
こんな体でここまで大きくなったのに、殺してしまうのはかわいそうだと
イワナをそっと逃がしてあげた。
「あれはキリクチやった、きっと主やな」
紀伊半島だけに棲むイワナで絶滅寸前らしい。
589: 本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:30:03 ID:fKVojrHb0
2/4
だいぶ薄暗くなってきたので、その日の成果は諦め沢を降る。
来がけの難所である滝まで来たとき、もう辺りは薄暗くなっていた。
叔父さんは大きな岩に持っていたロープを回し崖を降りはじめた。
普段そんなことはぜず、慎重に足場を探しながらゆっくりと降りるらしい。
懐中電灯の類を持ってきていなかった叔父さんは、
こんなところで一晩過すのはまっぴらだと横着した。
下まであと3~4メートルというところで、
引っ掛けていたロープが外れたらしく落下。
ゴツゴツとした岩場に着地し足に激痛が走る。
あまりの痛さに、これは間違いなく骨折してると思った。
周りに落ちている枝切れで足を固定し、なんとか川を降りようとしたが、
真っ暗な中、しかも片足では大して進むこともできず、
諦めて川岸に座り込んだ。
590:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:31:33 ID:fKVojrHb0
3/4
睡魔か空腹か骨折の痛みのせいか、意識がもうろうとしている中、
何かが叔父さんのすぐ近くにいることに気付いた。
フンフンフン フゴー フンフン フゴー
それはしきりに叔父さんの臭いを嗅ぎまわっていた。
牧場の牛を臭いを更に酷くしたような獣の臭いが鼻をつく。
クマや!死んだふりしてもあかん!
そう思ったが、体を動かすことも目を開けることもできなかった。
しばらくその獣は叔父さんの周りを回っていたが、
突然足をぐいっと持ち上げられたかと思うと、
ゴツゴツした川原を引きずられだした。
体中を岩に何度も打ちつけられ、
この後自分が食べられることが分かっていながらも、
痛いがな、もうちょっと優しくしてくれ
などと思っていたところで記憶がなくなった。
気がつくと夜は明けていて、川原に寝転がっていた。
辺りを見回すと、そこは車を止めた林道のすぐ脇だった。
相変わらず激痛が走る足を引きずり、
叔父さんは自力で車を運転して病院に行った。
591:本当にあった怖い名無し:2009/07/25(土) 14:33:02 ID:fKVojrHb0
4/4
そんな体験談を聞いて
「クマに助けられた?」と尋ねた。
「あれはクマやない、クマやったら引きずられてるとき横か上におるやろ」
四本足で歩く熊が人を咥えて引きずる姿を想像してみる。
確かに体が邪魔になる。下手したら踏みつけられるかも。
じゃあ何?と不思議がってる俺に叔父さんは言った。
「牛鬼や」
ええ?昔話の?あれ人を襲って食べるんじゃなかったか?
信じられないという問いかけに
「キリクチ助けたやろ?せやから助かった。
あれ捕まえとったら多分わしも食べられてたわ」
叔父さんが言うには、
川の主であるイワナに温情をかけ食べずに逃がしてあげたので、
牛鬼は叔父さんを食べずに助けてくれたとのこと。
それ以来叔父さんはイワナを釣り上げても逃がすようにしているらしい。
「キャッチアンドリリースや、アマゴは食べるけどな」
そう言って豪快に笑った。
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