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浮浪者 [洒落にならない怖い話35]

俺が働いている百貨店でたまに、店内を浮浪者が彷徨いているから何とかしてくれ、と言うクレームが入る。
皆、慣れたものでおいおい、またか、と。
だいたい出入口から各階警備員で固めているので、そんな輩が入り込めるはずがない。
口を揃えて、見える人にはやはり見えるもんなんだな、と。

うちの百貨店は戦後の復興期に隣に新館を建てて今に至るのだが、以前は旧館に三人の浮浪者が住み着いていたらしい。
何度追い出しても戻ってくるし、その頃は浮浪者も一般人も大して変わらない風体だったしで、さほど問題とはされなかった様だ。
そればかりか、ある程度、店の連中とも仲良くし、ごみ拾いなんかの仕事もして順応していた様だ。

しかし、ある程度街が復興し、隣に新館を建てる予定が出てくる頃となると、少々話が違ってくる。
今まで通り、店内に居住させるのは如何なものか、と言う意見が多数となる、実際に汚らしい、などと言うクレームめいたものも客から出る様になって来た。
そのうちに新館の建設とともに旧館も全改装となり、主だった従業員は休みをとる。
従業員が改装終えた旧館に戻った時にはもう、三人の浮浪者は消えていたと言うことだ。
何処に行ったのか知るものはいない。
語るものもいない。

今よりも人が消え易い時代だったのだ。
しかし、それから現在に至るまで、年に何度か客からのクレームが入る。
浮浪者を何とかしてくれ、と。
決まって旧館だ。
俺達はこう言うしかないじゃあないか。
見える人にはやはり見えるもんなんだな、と。

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