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バッタ [洒落にならない怖い話33]

子どものころ、バッタの首をもいだことがある。
もがれた首はキョロキョロと触覚を動かしてい
たが、胴体のほうもピョンピョンと跳び回り続
けた。
怖くなった俺は首を放り出して逃げだしてしま
った。
その記憶がある種のトラウマになっていたが、
大学時代にそのことを思い出すような出来事が
あった。

怖がりのくせに怖いもの見たさが高じて、よく
心霊スポットに行った。
俺にオカルトを手ほどきした先輩がいて、俺は
師匠と呼び、尊敬したり貶したりしていた。
大学1回生の秋ごろ、その師匠と相当やばいと
いう噂の廃屋に忍び込んだ時のこと。
もとは病院だったというそこには、夜中に誰もい
ないはずの廊下で足音が聞こえる、という逸話
があった。



963:2/5:2006/01/21(土) 11:37:53 ID:9bX5hJte0
その話を仕込んできた俺は、師匠が満足するに
違いないと、楽しみだった。
しかし
「誰もいないはずはないよ。聞いてる人がいる
 んだから」
そんな森の中で木を切り倒す話のような揚足取り
をされて、少しムッとした。
しかるにカツーン、カツーンという音がほんとに
響き始めた時には、怖いというより「やった」
という感じだった。
師匠の霊感の強さはハンパではないので、「出る」
という噂の場所ならまず確実に出る。
それどころか火のない所にまで煙が立つほどだ。
「しっ」
息を潜めて師匠と俺は、多床室と思しき病室に身
を隠した。
真っ暗な廊下の奥から足音が均一なリズムで近づ
いてくる。
「こどもだ」
と師匠が囁いた。



964:3/5:2006/01/21(土) 11:40:38 ID:9bX5hJte0
歩幅で分かる。
と続ける。
誰もいないのに足音が聞こえる、なんていう怪奇
現象に会って、その足音から足の持ち主を推測
するなんていう発想は、さすがというべきか。
やがて、二人が隠れている病室の前を足音が。
足音だけが、通り過ぎた。
もちろん動くものの影も、気配さえもなかった。
ほんとだった。
膝はガクガク震えているが、乗り気でなかった
師匠に勝ったような気になって、嬉しかった。
ところが微かな月明かりを頼りに師匠の顔を覗
き込むと、蒼白になっている。
「なに、あれ」
俺は心臓が止まりそうになった。
師匠がビビッている。
はじめてみた。
俺がどんなヤバイ心霊スポットにでも行けるのは
横で師匠が泰然としてるからだ。
どんだけやばいんだよ!
俺は泣いた。



965:4/5:2006/01/21(土) 11:42:18 ID:9bX5hJte0
「逃げよう」
というので、一も二もなく逃げた。
廃屋から出るまで、足音がついて来てるような
気がして、生きた心地がしなかった。
ようやく外にでて、師匠の愛車に乗り込む。
「一体なんですか」
「わからない」
曰く、足音しか聞こえなかったと。
いや、もともとそういうスポットだからと言った
が、「自分に見えないはずはない」と言い張る
のだ。
あれだけはっきりした音で人間の知覚に働きかける
霊が、ほんとうに音だけで存在してるはずはないと
いうのである。
俺は、
(この人そこまで自分の霊感を自負していたのか)
という驚きがあった。



966:5/5:2006/01/21(土) 11:42:55 ID:9bX5hJte0
半年ほどたって、師匠が言った。
「あの廃病院の足音、覚えてる?」
興奮しているようだ。
「謎が解けたよ。たぶん」
ずっと気になっていて、少しづつあの出来事の
背景を調べていたらしい。
「幻肢だと思う」と言う。
あの病院に昔、両足を切断するような事故にあ
った女の子が入院していたらしい。
その子は幻肢症状をずっと訴えていたそうだ。
なくなったはずの足が痒い、とかいうあれだ。
その幻の足が、今もあの病院にさまよっていると
いうのだ。
俺は首をもがれたバッタを思い出した。
「こんなの僕もはじめてだ。オカルトは奥が深い」
師匠はやけに嬉しそうだった。
俺は信じられない気分だったが、
「その子はその後どうなったんです?」と聞くと、
師匠は冗談のような口調で冗談としか思えないこと
を言った。
「昨日殺してきた」

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