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文次郎釣場 [洒落にならない怖い話28]

明治初期のことである。

小さな漁村があった。
けっして豊かとは言えないが、よい漁場に恵まれ、
皆、それなりの暮らしができる村だった。

村には、文次郎という釣りのうまい若者が家族と住んでいて、
漁に出ると、いつもかごを魚でいっぱいにして帰ってきた。

ある日、文次郎は沖で、金色の魚を釣りあげた。
長く漁師として働いているが、見たこともない美しい魚だった。

このように美しい魚なのだから、味もさぞ格別なのだろう、と
さっそく、その魚をさばいてみたが、
その姿に似あわず、身はまずくて、とても食えたものではない。
家の者にもすすめてみたが、誰も気味悪がって口をつけようとしないので、
文次郎はしかたなく、身も骨も捨ててしまった。



32:本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 06:08:07 ID:upHMlzme0
次の日ははげしい雨だった。

網を繕いにでた文次郎が、なかなか帰ってこないので、家族が心配していると、
戸を叩く音がして、文次郎が帰ってきた。

不思議なことに、あれほどの雨にもかかわらず、文次郎の着物は少しもぬれていない。

文次郎は、目もうつろで、家の者が声をかけても
何も聞こえぬふうであった。
心が遠くに行ってしまったようであった。
ただ口ばかりが動いていて、ぶつぶつと何やら言っている。

そのまま文次郎は寝込み、高い熱に苦しんだ。



34:本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 06:08:42 ID:upHMlzme0
やがて、夜がふけたころ、文次郎は起きあがり、戸を開けてふらふらと外へ出て行った。
家の者があわてて追いかけたが、文次郎のすがたは、くらやみに溶けるように消えていった。

二日後、岩場に文次郎のなきがらがあった。
目はえぐられ、身体のいたるところがなにものかに食いちぎられ、
なんともむごたらしいありさまだった。

人々は「金の魚のたたりだろう」とおびえたという。

今でも、そこは文次郎釣場と呼ばれ、魚がよく釣れる場所である。

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