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愚か者の願い [洒落にならない怖い話]

馴染みのバーに入るとカウンターが満席でボックス席の
老紳士と相席することになった。
老紳士は仕立てのいいスーツを着てサングラスをかけ
ステッキを持っている。
他愛のない会話をしていると老紳士がこう言ってきた。
老「私は昔、超能力を持っていたんだ。」
私「どんな能力です?」
老「自分の願望を実現させる能力さ。例えばこう願うんだ。
  指を鳴らすとグラマーな美女が私の隣りに座る、と。
  そして指を鳴らすと本当にグラマーな美女が私の隣りに
  座るんだ。」
私「ただ願うだけじゃダメなんですか?」
老「そう、ただ願うだけじゃだめなんだ。なにか動作がなければ。
  私は自分の望むすべてを手に入れた。すると、この能力を人類
  のために使いたくなった。」
私「そうですね。最終的にはそこに行き着くかもしれませんね。」
老「私は目を閉じてこう願った。私の目が開くと世界中から争いが
  なくなる、と。」
私「なるほど。しかし今でも世界中で争いが起きていますよ?」
老「そう。その願いは叶えられる願いじゃなかったんだ。私は人間
  の愚かさを見くびっていた。そんな私こそが一番の愚か者だっ
  たってことさ。・・・さぁそろそろ帰ろう。たのしかったよ。
  ありがとう。」
老紳士は立ち上がり俺に握手を求めてきた。俺が手を握り返すと
老紳士はサングラスを外した。その目は閉じたままだった。
手を話すと老紳士はステッキで前を確認しながらバーを出て行った。

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